ガム人間、死す
僕があんまり他人に頼ってばかりなので
怒った魔女は僕の体を
チューインガムの体に変えてしまった
ベタベタ歩く人形
服を着た毛のない緑色
みんな僕から逃げて行く
ひそひそ喋って逃げて行く
引っ越した家が7つ
怒りにまかせてガラス窓を殴っても
拳が柔らかな音を立てて潰れるだけで
潰れた手でもう一度叩くとガラスは
大きな音と共に今更割れて
僕の右手はガラスの破片に
ちぎれて重たそうにくっついている
ちぎれてもまたくっつけて形を整える
万事元通り
血の流れない体
手が紙にくっついてノートもめくれず
ひねもす学校の中庭をぐるぐると歩く
ぐるぐる歩くだけなら
ガムにもできる
道を歩くと子供達が
僕に石を投げ付ける
大きな石が耳に当たる
ベチャリと音がして
耳にクレーターができる
良く考えて気が付くと
右の耳は聞こえなくなって
あれ?
耳の中の造りなんて知らない
眼の中の造りはもっと知らない
「両眼だけは何があっても!」
必死に逃げる僕と
怪人を追いかける正義の子供達
人間の子供9人に怯える僕はバスに乗って遠い町へ
人間達はみんな逃げ出して乗客は僕だけ
運転手の手は震えてバスは谷底ヘ
這い上がった先の村で
小学校の校庭に寝そべって空を見る
どこへ行っても地上は人間だらけ
走るのはもう飽きたなあ
逃げるなら空高く飛びたいな
チューインガムじゃなくて
フーセンガムだったら
プカプカ空に浮かんで
大気圏を越えたところで
弾けて燃える流星雨になって
人間の街を
クレーターに変えられるのに
そんな妄想をしていた僕を
不意に赤いチューインガムの少女が覗き込む
同族!?
初めてそんな気がする
この世には人間が多すぎる
赤い少女が僕に話しかける
「あたしとひとつになろうよ
そうすれば人間達から逃げる時も
ううん いつだって
あたしたちはひとりぼっちじゃないよ」
それは違うよ
一緒になってひとつになったら
結局そのあとの僕らは
またひとりぼっちになっちゃうよ
そう言おうとした時
有害鳥獣駆除の鉄砲の弾
僕の眼は異常事態左舷大破緊急警報総員待避
僕らは手に手を取ってひた走る
伝わるぬくもりも無く
ただ手がベッタリひっつくだけで気味悪いけど
坂で転んだ僕らは
お互い抱き合ってゴロゴロ転がって
あちこちベタベタ粘着して
縞模様の巨大なガムの塊になって
眼も耳もなく
手も足もなく
ああ 確かにこれは
ひとりぼっちじゃなくなるのかなあ
ただのガムの塊は
ドブ川に落ちて
しばらく浮かんでたけどやがてヘドロに沈んで
それから先は 知らない