透明人間の人権を剥奪する法律が施行されたので
(そりゃそうだ、いるかいないか判らない者に人権は無い)
僕たち透明人間はその夜
自分の体にペンキを塗りたくった
十二時の鐘が鳴る前に可視人と同じ姿にならなければ
僕らは可視人の射撃ゲームの的になってしまう
(感熱スコープや赤外線スコープにのみ映る透明人間を撃つのは
彼らにとってこの上ない娯楽なのだ)
だがあいにくこの国には青と緑と灰色のペンキしかなくて
出来上がったのは安っぽいいんちきピエロの群れだ
可視人といえども
いんちきピエロにはいんちきピエロの人権というものがあり
僕たちは可視人たちの噴水広場で稚拙な芸を見せ
宴が終わると
地面に散らばる小銭を這いつくばって拾い集めた
「俺は桃色の肌になりたいなぁ」
「ボクは黒い人間になりたいや」
みんなで焚き火を囲みながら
国内にはない色のペンキに思いを馳せた
でも青、緑、灰色以外のペンキは
経済封鎖のせいでもう二百年以上輸入されていない
例えば桃色のペンキなんかは
ひと缶買うお金があればお屋敷が一軒建てられるくらい高いんだ
亡命するという手もないわけじゃないけど
砂漠の国境線は隣国が地雷を敷き詰めていて
既に百人以上の透明人間が消し飛んだと聞く
僕たちは国境を越える勇気なんてないから
こんな所で生き延びる喜びを噛み締めているというわけさ