小学校の柳の木が折れたと聞いて
僕はコートも羽織らずに家を出た
吐息が白く輝く校庭では
大勢の子供達と数人の若い女性教師が彼女を取り囲み
一言も発せずただ固唾を飲んでいた
上半身だけとなった彼女は真上を
雲のない虚空の一点をじっと見つめ
(恐らくもう眼球を動かすことすらできないのだ)
「殺さないで」「お姉ちゃん助けて」と
かすれた声でうわごとのように繰り返す
彼女が助かることは最早あり得ない
だから僕が嘘をつく必要もないわけで
僕がその手をそっと握ると
彼女は瞬く間に真っ白な灰と化して
そのまま不可視の民となる