圧縮表層構造 16



時空黄金像からルビーの瞳が奪われたため
僕たち改造保安庁道徳啓蒙委員会のメンバーは
時の流浪者となってしまいました
言うなれば時のホームレスです

時空デコトラに乗って
現代目指して過去へ未来へ
行く先々の時代で笛を吹きながら
人のあるべき姿を説き
道徳なき時代に道徳を蘇らせていきました

見知らぬ時代に道徳をもたらすことで
戻るべき現代にも道徳を取り戻せると信じながら

しかしながら
道徳を蘇らせるごとに歴史もまた変わるのか
僕たち委員会の仲間たちは
一人また一人と
人の形を失っていきました
ある者は海水に溶けて消え
ある者は犬になって走り去り
ある者は僕の腕の中で
服だけを残して消滅しました

最後に残った僕はデコトラのハンドルを握り
時空ハイウェイをひたすら逃げ惑いましたが
事故に巻き込まれた時に無免許時空移動がばれて
僕は駆けつけた時空警察に過去干渉罪で逮捕され
時空デコトラごと現代に強制送還となりました

正確な現代に戻れるのと引き換えに
時空デコトラは時間跳躍機能を剥奪されることになりました

僕はデコトラに乗ってようやく職場に戻りました
一人また一人と消滅したはずの仲間たちが
何事もなかったかのように僕を待っていました
夕暮れの電車に揺られて家に帰ると
父も母も以前のままでした
街を汚染する若者たちも以前のままでした

結局現代の人間たちは何も変わってはいなかったのです
でも
もしかしたらこれでよかったのかもしれない
と思うこともあります

時間跳躍機能を停止させられたデコトラは
もう僕たちに語り掛けることはありません
それだけが僕の心の奥に突き刺さったまま
僕たちは生き返らないデコトラで
今日も街へと向かいます


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菅井 清風(k-sugai@hoffman.cc.sophia.ac.jp)
© 2000 SUGAI Kiyokaze