暗転砲


氷の町は
今日も静かに
眠る夜を迎える

ぬくぬくと暮らす人々
ワクチンを完成させるために
人体実験に連れ去られた
私の娘のことなど
もはや誰も覚えてはいない

今日この夜のために
私は7年を費やした
今年最後の満月の夜
暗転砲は私の悲しみを
吸い続けて完成した

何人殺しても
娘は帰ってこない
それならばいっそ

吹雪が強くなる
私の決意を鈍らせるように
暖炉は燃える
7年の苦しみを代弁するように

吹雪の舞う夜中
どこで聞きつけたのか
軍の将校がやってきた
暗転砲の技術をもらいに

私は静かにうなずいた
「ただし条件があります
夜明けと共に
まず最初に
私ごとこの氷の町を
消し去って下さい」
私の顔を見て少し考え
将校は静かにうなずいた

巡洋艦がやってきた
もちろん暗転砲を積んで
砲身は静かに町を見つめ
町が青く鈍く光る時を待つ

そして
夜明け
秒針は6時を指した
黒い船が運命を告げる

ロケットが目指す町の中心部
雪道を歩くココア売りの老婆に
暗転砲を止められるわけがない
それは7年前に決められた
運命なのだから

迫る毒ガス
軌道は計算されている

私は泣きながら微笑んだ
「これでいいのだ」
カーテンを閉め
私は静かに眼を閉じた

町を覆う黒い煙
氷の町から太陽が消える
娘の眼から
生命が消えたように


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